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ちょうどいいぼったくり

 先日、ある税理士さんと雑談をしていた時、彼は某クライアントさんに関して、こんな感想を述べていました。

 「最近私のお客さんになった方で、40歳過ぎで突然脱サラして、中央線沿線でバーを始めた人がいるんですよ。ものすごくいい人なんですが、ぜんぜん儲からなくてねえ。会計見ている私の方が心配しちゃいます」

 と彼は言いました。

 私はこの話を聞き、前日の私の身に起きた出来事に思いを馳せたのでした。

 私は久しぶりに地元横浜に帰っていました。
 いろいろな用事を済ませ一人になり、夜も更けた夜中の1時頃、京浜急行線沿線のある駅に降り立ちました。

 まっすぐ実家に帰ってもいいのだけれど(タクシーで2メーターぐらい)、この土地勘のない(もちろん、地元なのだから約30年ぐらい前には土地勘のあった場所)場所を、少しぶらりとしたい衝動にかられました。

 しかし、そこは横浜郊外の中途半端な規模の駅。実際のところ目につくネオンはガストか吉野屋ぐらいしかありませんでした。

 そんなチェーン店、ここで食ってもなあ。

 そうは言ってもと、少し歩いてみると、あるスナックの看板に目が留まりました。

 何というか、いかにもいかがわしい田舎のスナックの佇まい。
 看板ばっかり派手派手の割には、あまり機嫌良く客を誘っているオーラがなく、なんとなく入りにくそうなエントランス。
 清潔かというと夜だからわからない程度に不潔。
 じゃ、廃墟かというと、つぶれない程度に流行ってて、看板の点滅の分だけテンションが水増しされている感じ。

 そして、何よりも私がひっかかってしまったのは、この怪しさのちょうどいい湯加減。たとえ、ぼったくりバーだったとしても、持っている現金ですっきりと払い切れて、無傷で生還し、安い酒飲まされたので次の日二日酔いであんまり覚えていない感じの怪しさ。
 私は、そんな「感じ」に引き寄せられるように、するするとその店に入ってしまいました。

 中は特筆するほどのことはない田舎のスナック。

 半開きの目でゆらゆらと揺れている常連客。

 細木先生のお弟子さんのような顔をしたママ。

 年齢不詳並びに顔の印象不詳のちーママ。

 時折流れる音量のはっきりしないカラオケ。

 ひからびた突き出しのちくわ。

 そのどれを取ってみても、何も生まない。何も死なない……。

 そして、極めつけの特徴は予想通りでした。

 私が彼らに与えた情報は4つ。

 (1)元は地元だけれど、今は東京にいて、今日はふらりと来ている。
 (2)今日はだいぶ飲んでいる。
 (3)来店前に用事があったので、地元のジャージ客のような格好ではなく、ジャケットを着ている。
 (4)そんなに若者ではない。

 そして、私の頼んだものは生ビール二杯。あとは、ママたちが適当に。

 さて、お会計。

 締めて13500円也。マンガ的なぼったくり方。

 しかも、現金で払いきれるちょうどいいぼったくり。

 私は苦笑いをしながらさくっと支払をし、さわやかに店を後にしました。

 どうせ二度と来ないだろう、どうせ二度と来るもんか、という「一期一会」が生み出す負の経済効果13500円也。

 私は次の日覚えていないし、ママは売上げを数えながら、店の奥でにやっと笑う。

 場面変わって、税理士さんとの雑談風景。

 私は前述の税理士さんに向かい、「そりゃ、その店(中央線沿線の脱サラバー)つぶれるわ」と言いました。

 地場の飲み屋は空中戦。いい人って言ったって、覚えてなければみな同じ。

 このマンガ的不況感の溢れる時代では、飲む方も稼ぐ方もタフな精神力がないとやっていけないのかもしれません。

 では、ハバナイスデイ。

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2009.09.25 | マンガ的!

銅像

 コンピュータのデータを整理していたら、こんな写真が出てきた。

IMGP1554.jpg


 以前、高知空港で撮影した吉田茂の銅像の写真だ。

 それにしても、この前の麻生太郎総理の記者取材ひどかったねえ。

 もう完全にひねくれちゃって、一国の総理大臣というより、単なる嫌みなおやじ状態。今時、なかなか町でも見ないよね、あんな感じの嫌みな人(笑)。

 世間に対しても、若者(記者)に対してもいらついてるのはわからないではないけど、それを(思わず)テレビカメラの前でやってしまうというのが、どうもあの人のマンガ的底の浅さのような気がしてしまう。

 いくらキャラの時代とかいいかげんに言っていても、すねたり開き直ったりすることを好意的に見てくれるほど、マスコミは優しくはない。
 いや、それどころか、その当人が涙目になって頭を垂れるまでじんわりと追い込み続ける見えない力を誇示し続ける。

 嫌みな顔や涙目が合うのは四コマ漫画であり、銅像ではない。
 開き直ってる人や謝っている人は、ネタにはなるけどあっという間に消え去る。

 人々の印象に残るのは、誠実な顔だ。

 銅像なのに動くのはハナ肇のコントだが、動かない銅像の表情は歴史だ。

 銅像になるような総理大臣って、そんなに難しいことなのか。


2009.09.12 | マンガ的!

とんかつ力の蔓延

 今日、近所の駅に

 「豊○摩力!」

 と書いた中途半端な印刷のポスターが貼ってあるのを見つけた。

 どうやら豊○摩高校(一部伏せ字)というところの文化祭のポスターらしい。

 でも、もういいかげんいいだろ、何とか力。

 この前、責任力って言ってた政党が粉砕したばっかじゃん。

 こんな日本語はないって、まじめな顔して文句言ってたコメンテーターもなんだとは思うけど、でも、「力」ってつけりゃ何でも通るってもんでもないでしょ。

 便秘力とか痴呆力とか貧乏力とかとんかつ力とか、いったいどこにいくんだよ、その力。

 学生諸君!

 コピーが安易だよ、コピーが。

 もっとひねってわけわかんなくしろよ、若いんだから。

 80年代見習えよ。どうせ景気悪いんだから(笑)。

 と、ひとり駅で虚空に向かい突っ込んでみた昼下がりでした。

 ハバナイスデイ。

2009.09.10 | マンガ的!

鶯谷のフィッシュ&チップス

 生まれて初めて鶯谷に行った。

 『en-taxi』(扶桑社発行)で『コックと編集者と、その友人』という連載をやっているのだが、今回は図らずも衆議院選挙の投票日、日曜日の昼下がりからコック(澤口氏)、編集者(私)、友人(黒住)という、いつもの中年三人組の鼎談と相成った。

 詳細は、今月末発行の本誌をぜひ読んでいただきたいのだが、とにかくこの鶯谷がものすごくいい。

 いいと言っても、決して私の事務所がある浜田山のような「感じのいい」街ではなく(そう言いながら実はうんざりしているのだが……)、根本敬さん言うところの「いい顔のオヤジ」が集う「いい感じの」街。

 扶桑社の担当者がアレンジしたので、なぜ、選挙の日にこの場所が選定されたかは不明だが、夏休み最後の日曜日、何だかとても因果を感じさせる「いい感じの」一日であった。

 中でも特筆すべき「いい感じ」がこれ。

IMGP1930.jpg


 駅前の24時間営業・定員さんの日本人率推定10パーセント・平均年齢推定57歳の居酒屋、というか食堂。そこで、ひたすら飲んでいたのだが、我々の「ポテトフライ」という注文に出てきた自称・ポテトフライ。

 何だか、初めて見た感じ。なんでエビなんだ。言ってないのに。けっしてうまいとかまずいとかばかにしてるわけではなく、何か大事な感性が違っている。

 これは鶯谷のフィッシュ&チップス。

 コックが80年代に流行ったハイブリッド料理の流れだとぼそっと言った。

 みんなでパクッと食った。
 しょっぱくてうまかった。

 宴会は終電ぎりぎりまで続いた。

IMGP1914.jpg


24時間営業中というのが、泣かせる。


IMGP1938.jpg


 ハバナイスデイ。

2009.09.09 | マンガ的!

乾杯の音頭

 昨日、中年のおっさんと二人で酒を飲んでいたら、変なサービスに出会った。

 店に入り(初めての店)、席に座って生ビールを注文した。
 しばらくすると生ビールが運ばれてきた。
 よく見ると、注文を取ってサーブしてくれているおねいちゃんは、なぜか手に3つのビールを持っていた。

 気がせく私たちの前に生ビールを置き、おもむろに彼女はこう言った。

 「それでは、乾杯の音頭を取らせていただきます。今日も一日お疲れ様でした。乾杯!」(とくに微笑みなどなし)

 一同ちょっと遅れて「あ、乾杯……」

 よくよく考えた末のお店のサービスらしいが、盛り上がると言うより調子狂った感じ。いくらなんでも、いらねえんじゃねえか、このサービス。

 その店員さんのかっこは普通。コスプレとかでもないし。

 乾杯の音頭って、箸置きみたいなもので、あってもなくてもどうでもいいような気もするんだけど、でも、あまり突飛でそこに神経取られたりするとうっとうしい感じもする。

 いきなり知らない店員さんに音頭を取られたり、箸置きが本物のかたつむりで微妙に動いたりすると、それはそれで、ものすごく心がざわざわするんだと思う。

 それは、サービスとかサプライズとかじゃなくて、自律神経に障るざわざわ。

 て、書いてて思った。これは歳か……。

 箸が転んでもおかしいはずの若者に対して、箸ひとつでかんに障る中年(笑)。

 では、ハバナイスデイ。

2009.09.05 | マンガ的!

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プロフィール

中丸謙一朗

Author:中丸謙一朗
職業:編集者・コラムニスト
1963年生まれ、横浜市出身。立教大学経済学部卒。1987年、マガジンハウス入社。『ポパイ』『ガリバー』『ブルータス』などで編集を手がけた後、独立。著書に『大物講座』(講談社)、『ロックンロール・ダイエット』(中央公論新社・扶桑社文庫)、『車輪の上』(エイ出版)、漫画原作『心理捜査官・草薙葵』(集英社コミックス)など。編著多数。

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