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【コン・ティキ号探検記】





 出来事というのは、やはりその時代背景を知ると、味わい深くなるものだ。

 1947年、トール・ヘイエルダール率いるコン・ティキ号(バルサで作った筏)は、南米ペルーから太平洋諸島への実験漂流を成功させた。その後、この航海の様子を綴った『コン・ティキ号探検記』は世界中で翻訳され出版された。本書は1956年に筑摩書房より刊行された日本版の文庫化(1996年発行)である。

 作中には5人の男たちの航海中の苦悩や情熱が心地よく描かれる。「未知」の大海原の魅力や神秘が十分に堪能できる。読後、解説者の一文が目を引いた。

 「半世紀前のコン・ティキ号の航海以来、大西洋で、日本海で、インド洋で、いろいろな実験航海が行われることになった。七十年代、八十年代はちょっとした実験航海ブームだった。血気盛んな男たちはヘイエルダールに憧れ、ヘイエルダールのように名声を得ようとした。男だけが興味を持つ命懸けの遊びでもあった」(解説より)。

 命を懸けて実験で漂流をしてみる。それだけでも驚くべきことなのに、それが後のブームの発端になっていたとは。そんな視点で、近年公開された映画『コン・ティキ』を眺めてみると、どことなく呑気で抑揚のない出来に見えていたこの物語も、さらなる奥行きや味わいを見せる。

 それにしても人間は(男は!?)、なんと漂流好きなことか。実際の航海なんぞはほんの一部。男の人生は漂流しっぱなし。蛇足ではあるが、拙編著(電子出版)『誰にも見つけてもらえない〜11人の美しき漂流人生』では、航海の成功後に訪れた、やっかみや批判などの「ロマンのおつり」についても紹介している。

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2014.05.09 | コメント(0) | トラックバック(0) | 書評・ふんどし本の世界

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プロフィール

中丸謙一朗

Author:中丸謙一朗
職業:編集者・コラムニスト
1963年生まれ、横浜市出身。立教大学経済学部卒。1987年、マガジンハウス入社。『ポパイ』『ガリバー』『ブルータス』などで編集を手がけた後、独立。著書に『大物講座』(講談社)、『ロックンロール・ダイエット』(中央公論新社・扶桑社文庫)、『車輪の上』(エイ出版)、漫画原作『心理捜査官・草薙葵』(集英社コミックス)など。編著多数。

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