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書評『天才 勝新太郎』

 やっぱり私はこういう商売をしているので、書き手と呼ばれる人たちへの評価には(自戒の意味も込めて)自ずと厳しくなるが、春日太一さんというこの若い書き手の仕事ぶりには感服した。

 帯には「『座頭市』と豪快な勝新伝説で知られる勝新太郎。本書は映画製作者としての勝とその凄まじい現場をスタッフの証言を元に再現し、繊細すぎる実像を浮き彫りにする。純粋さが加速させる狂気のノンフィクション」とある。

 勝新太郎自身によるものではない、勝死後の、まったく他者による自叙伝だ。

 著者は周辺への丁寧な取材によって勝新太郎の内面をえぐり出していく。

 それは、当時の勝のこんな口癖に象徴される。

 「そんなのはトゥーマッチだ」

 「大袈裟に誇張された表現、説明のための表現……分かりやすくするため、盛り上げるためにデコレーションされた全ての表現を、勝は『トゥーマッチ』と切り捨て」(本書より)た。

 勝は、百出した凡庸な表現を憎み、「心ある、本当の道をめざす人間は、自分だけの道を歩かなければならない。(中略)人々が長いこと見なれてきたものが、いかに退屈だったかを悟らせなければならない」(本書より)と、ひとり気を吐く。

 私は昔、『VIEWS』(講談社刊)という雑誌で、田原総一朗さんの連載対談のアンカーライターをやらせてもらっていた。

 そこで、運良く、勝新太郎VS田原総一朗という対談の機会を得た。

 そこにいた勝新太郎(先生)は、もはや晩年にさしかかり、例の大麻騒動の後でマスコミにさんざん叩かれ、体調も万全という感じではなく声もかすれぎみであったが、それでも迫力はじゅうぶん。突然、脈絡もなく始まる憑依的な身振りや手振り、ぼそっと呟かれるセリフ、そのひとつひとつに鬼気迫るものがあり、対談は勝先生の独演会と化した。まさに、道なき道を歩む、そんな感じだった。

 この本は創造者を元気にさせる。孤高の歩みはつらい。でも、「千里の道を歩いていくなかで、心に芽生えた疑問、芽生えた愛、芽生えた醜さ、芽生えた尊さ、いとおしさ、いつくしみ、すべてを、自分だけにしか表現できないやり方で、表現しなくてはならない」(本書より)と、その存在に大義を与えてくれる

 “トゥーマッチ”だが、最後にもうひとつ、本書からのエピソードを紹介するのをお許し願いたい。

 香港の配給会社ゴールデン・ハーベストのプロデューサーが、勝プロとの提携に関する案件として、小柄で痩せたひとりの男を提案した。

 「一度、こいつのアクションを見てくれ、物凄いから」

 と、プロデューサーは勝新にフィルムを渡す。

 フィルムを見た勝は、「その男の、奇声を発しながらのアクロバティックなアクション」に思わず吹き出し、こう呟く。

 「これはマンガだよ」

 その一言で、勝新とブルース・リーとの共演は幻に終わった。

 “孤高”は、時に交わり、時にすれ違う。

 やはり、勝新太郎は天才である。



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『天才 勝新太郎』春日太一著(文春新書)
ふんどし度 ★★★


2010.05.27 | コメント(0) | トラックバック(0) | 書評・ふんどし本の世界

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プロフィール

中丸謙一朗

Author:中丸謙一朗
職業:編集者・コラムニスト
1963年生まれ、横浜市出身。立教大学経済学部卒。1987年、マガジンハウス入社。『ポパイ』『ガリバー』『ブルータス』などで編集を手がけた後、独立。著書に『大物講座』(講談社)、『ロックンロール・ダイエット』(中央公論新社・扶桑社文庫)、『車輪の上』(エイ出版)、漫画原作『心理捜査官・草薙葵』(集英社コミックス)など。編著多数。

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