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餃子屋とえのきだけ

 阿佐ヶ谷の行きつけの餃子屋で酒を飲んだ。

 餃子のとびきりおいしいカウンターだけのとても小さな店だ。

 ひとりでふらりと入ったのだが、私がカウンターに座ろうとすると、先に入っていた女性二人組が席を二つ分空けてくれと、顔をしかめるように言った。
 あとから男性が二人来るらしい。つまり、「知らないあんたは、もっと、あっちに行ってくれ!」というわけだ。

 私は言われるまま、席を二つ分空け、カウンターに座った。

 横目でちらりと見ると女性たちはどこか落ち着きのない様子だった。

 やがて、男性二人がやってきて私の隣の二席分のスペースに収まった。

 「はじめまして」「やあ、どうもどうも」

 ど狭いスペースで、どこかうかれがちの初対面の挨拶をしていた。

 合コンかよ(笑)。

 その店は、カウンターだけの7人も座ればいっぱいになる店だ。
 餃子のおいしさももちろんだが、そのちょうどいい狭さとご主人の気さくさで常連が集まり、店内の会話や雰囲気も自然と一体感のある心地よいものとなる。

 つまり、「場所選べよ」と、そういうことになる。

 私は店のおやじとぬるい会話を交わしながら、おとなしく紹興酒を飲んでいた。

 私の左側では、そこだけへんな「島宇宙感」で合コンは続いていた。

 私の紹興酒が空になった頃、やがて、お隣の人たちもお開きとなった。

 十分に楽しんだらしい。帰り支度に店内が一瞬ざわつく。

 席を立とうとした瞬間、女性のうちのひとりがしなしなと床に崩れ落ちた。
 どうやら、飲み過ぎて腰を抜かしたらしい。

 腰抜かす人、ひさしぶりに見た。

 その崩れ落ちる様はしゃぶしゃぶ鍋に入れたエノキダケのようだった。

 代々木にある老舗しゃぶしゃぶ屋のおやじ(ソウル好き)は、しゃぶしゃぶの食い方にものすごくうるさい。

 「しゃぶしゃぶは寄せ鍋じゃない!」というのが口癖で、えのきが湯に浸っている時間がほんの少しでも長いと、遠くからすっ飛んで怒鳴りに来る。

 えのきを箸でお湯と平行に持って湯に入れ、えのきの頭がくたっとお辞儀をしたらすぐに引き上げろと顔を真っ赤にしながら、何度も実演してみせる。

 いいかげんに食うな、頃合いを知れ! というのが、このおやじの強烈なメッセージであり、強制的な指導なのである。

 私たちはこれに従う。なぜか背筋をビットさせながら食う。
 客なのに(笑)。

 えのきも女性もかよわきものだ。

 餃子屋の床に崩れ落ちた女性は目をとろんとさせ、くたっとへたりこんでいる。

 飲ませた男たち二人はおろおろとしながらえのき状の女性を抱えて、「さて、どうしましょ」と、夜の町に消えていった。

 「えのきでも合コンでも、頃合いが大事だ」。

 私は頭の中で、遠くからすっ飛んでくるおやじの姿を思い浮かべながら、人知れず苦笑した。

 では、ハバナイスデイ。
 


 

2009.10.10 | マンガ的!

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プロフィール

中丸謙一朗

Author:中丸謙一朗
職業:編集者・コラムニスト
1963年生まれ、横浜市出身。立教大学経済学部卒。1987年、マガジンハウス入社。『ポパイ』『ガリバー』『ブルータス』などで編集を手がけた後、独立。著書に『大物講座』(講談社)、『ロックンロール・ダイエット』(中央公論新社・扶桑社文庫)、『車輪の上』(エイ出版)、漫画原作『心理捜査官・草薙葵』(集英社コミックス)など。編著多数。

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